秋満吉彦ディレクター

インタビューの第1回は、このドラマを企画されたNHK千葉の秋満吉彦ディレクターです。
地域発ドラマということで、千葉を題材にしたドラマを作ることになった中、広い千葉から、いすみ鉄道といすみ・大多喜地域が舞台として選ばれた経緯と、この地域や千葉の魅力について、お話していただきました。

NHK BSプレミアム・千葉発地域ドラマ
「菜の花ラインに乗りかえて」制作秘話

【千葉発地域ドラマ誕生】

IMG_9970NHK千葉放送局70周年の記念事業として、地域発のドラマがつくれないかと二年前から話が出ていました。
日本全国ほとんどの地域でその放送局独自のテレビ放送の電波を持っているため、その地域情報を自ら発信できることができます。しかし、千葉放送局にはそれがありません。
そのため、どのように地域を盛り上げていくことができるのか、千葉放送局局長を交え、話合いを進めました。

当時の局長は異動してしまったのですが、その後もその想いは引き継がれ、今回ようやく形になったのです。
元々、関東の放送局(千葉・さいたま・横浜)の規模は他の地域に比べ小さく、通常、10人~15人のディレクターで対応しているところ、千葉放送局は5人しかいません。
形にしていくにもマンパワーやノウハウがない中、今回ドラマ番組部のメンバーがサポートしてくれることになり、ようやく前に進みはじめました。

はじめてのドラマ制作。
千葉発といってもどのようなものがいいか、まずは職員にアイデアを求めました。
何が一番千葉らしいのか。都会が近い、自然が豊か、海がきれい、どれも千葉の魅力ですが、他の都道府県でも当てはまることも多い。
皆でアイデアを出し合う中、『物語』という切り口で千葉らしさを考えてみると、「とかいなか」というキーワードが出てきました。
東京から近いものの都会ではない。かといって「ど」いなかではない。都会といなかが共存し、なんでも受入れてくれる包容力がある。様々なものがミックスされているからこそ、何かを強制するのではなく、あたたかく受け止めてくれる。
それが「千葉らしさ」なのではないか。そんな共通の思いが見えてきました。

【新しさと夢。千葉らしい『物語』】

千葉って、なんとなく中途半端で東京を目指しているけれど、これといった特徴がない。千葉放送局に赴任する以前はそう思っていたのですが実際は違いました。

IMG_9975以前、番組で神埼町にある老舗の酒蔵を取材させて頂いたのですが、ここでは全国から集まってきた若い蔵人がにぎやかに、とても楽しく生き生きしていました。
いすみ鉄道の自社養成鉄道運転士訓練生(*700万円を自己負担してもらい鉄道運転士になれる機会を広く社会人に提供する取り組み)の1期生を取材した時も同様に、晴れて国家試験に合格し鉄道運転士として新しいスタートを切った姿がとても生き生きしていた。

どちらも物語があり、新しさがあり、夢がありました。地域の人も、そこで関わっている人も皆で応援する。そんな人と人とのつながりがありました。
いすみ鉄道をヒントにした物語を作ることで、そんな千葉のすばらしさをわかりやすく表現することができるのではないか。そう考えて今回のような設定を考えました。

今回の題材のヒントになったいすみ鉄道の鳥塚社長には以前からとてもお世話になっています。いつも快く取材を受けて下さり、一緒に取り組んでくれます。

ローカル鉄道を盛り上げたいという熱い思いをいつも感じますね。こちらかの要望に対しても社長自ら対応してくれ、協力してくださる。一緒に現場で動いてくださるんですよ。今回の撮影に関しても色々と協力頂く予定です。
ドラマの基本設定は今回演出を担当するドラマ番組部の監督・吉川邦夫や脚本家の真柴あずきさんとの雑談から色々と広がっていきました。

成田空港があるから主人公は元キャビンアテンダントがいいんじゃないかとか、大多喜町に酒蔵があるから実家にしようとか。登場人物の名前も千葉県内の地名とかけているので、見てみるとおもしろいですよ。

【多様な「幸せのモノサシ」がある千葉県】

千葉県内でも、あえて都会から離れ、自然の豊かな地域へ移り住む若者が増えてきているように思います。私自身の周辺にも定年を待たずして早期退職して自然豊かな海外への移住を考えている人もいて、身近なこととして感じています。

IMG_9972社会全体として、自然が身近にある暮らし、自然と共に暮らすことに魅了を感じる人が増えてきているのではないでしょうか。以前、東京から移り住んだ若い方の取材の中で「幸せを測るモノサシは人それぞれ違うような気がします。」といっていたことがとても印象的でした。

今までは収入が増える、出世することで、それが幸せなことと思われていましたが、それが全てではなくなってきている。人それぞれ「幸せのモノサシ」を持っていて、1つのパターンでは表せない。例えば、お金がすべてではなくなってきているような印象を受けます。

そんな多様なものが、東京に近いという距離感もあって、千葉では生まれやすいのではないでしょうか。「都会的なよさ」「田舎のよさ」のどちらかを諦めたり、どちらかを選ばなければいけなかったりではなくて、どっちも満たしてくれる。色々なことを許してくれる環境が千葉にはあるような気がします。

他を排除するような感じもなく、なんでも受入れてくれる。都会のセンスが古き良きものと程良くミックスされていて、今までなかったものがある。それを楽しむ人がいる。元気のあるところに人が集まりつつあるのかもしれません。知られてない故の良さが千葉らしさなのかもしれません。

元々私は情報番組系のディレクターをやっていたので、なにもないところから作り上げていくということは初めての経験。とても新鮮でどんなものが出来上がるのかわくわくしています。
様々な千葉の魅力を盛り込み、いいドラマにしていきたいです。

(文:三星千絵、取材場所:NPO法人いすみライフスタイル研究所事務所)